5.5 海外で解明された効果

 インターネット広告のクリック率の低下にともない,広告主は広告効果を疑問視するようになった。一部では広告の出稿を控える動きもあった。インターネット広告業界はそれに対応して,クリックでは測定できないインプレッション効果を強調しはじめた。これまでインプレッション効果を実証するデータは乏しかったが,2001年になってそのデータがそろいはじめた。

 IABはダイナミックロジックに委託して2001年4月から6月にかけて調査を行い,インターネット広告のブランディング効果を明らかにした。それによると,標準的なバナーは,ブランド認知,メッセージ想起,ブランド好感,ブランド購買意向を高める効果があった。また大型のスカイスクレイパーやラージレクタングルは,標準的なバナーよりもブランド認知やメッセージ想起を向上させる効果が大きかった。ブランドに対する好感や購買意向は,フリークエンシーに応じて増大した。ダイナミックロジックはスカイスクレイパーについて,ブランドロゴをクリエイティブの上部に配置したほうが下部に配置するよりブランディング効果が高いことなどものちに解明している。

 ダブルクリックもインターネット広告のブランディング効果について2001年6月に調査を実施している。それによっても,標準的なバナーがブランド認知などを高めること,および大型の広告のほうが有効であることが確認されている。また,音声や動画を利用した広告よりもフラッシュを利用した広告が有効であること,ウェブページ内の広告やポップアップ広告よりもインタースティシャル広告が有効であることも明らかになった。マイクロソフトもそれと似た調査により,DHTMLによるインタラクティブな広告の有効性を確認している。

 エンゲイジ(Engage)はコンバージョンに注目してインプレッション効果を明らかにした。同社の2001年第3四半期の報告書によると,広告が影響したすべてのコンバージョンのうち,広告をクリックして訪問した利用者のものは25%に過ぎないという。それに対して,広告に接触したもののクリックせずその後に訪問した利用者のコンバージョンは36%,残りの39%は2回目以降のコンバージョンだった。すなわち,クリック率だけに注目していると,残りの75%の効果を見逃してしまうということだ。また,広告に接触したもののクリックせずその後に訪問した利用者のコンバージョンは,38%が30分以内,52%が24時間以内,96%が30日以内に発生していた。

 コンバージョンについては,アドバタイジングドットコム(Advertising.com,http://www.advertising.com/)も2003年5月にデータを公表している。同社が1週間に渡って1,500万人に配信した1億6,800万インプレッションのクリック率とコンバージョン率を,広告フォーマット別に分析したものだ。クリック率については,フルバナー(左右468ピクセル×天地60ピクセル)のそれを100とすると,リーダーボード(728×90)は110,スカイスクレイパー(120×600)は160,ポップアップは1,320だった。一方,コンバージョン率について,フルバナーのそれを100とすると,リーダーボードは70,スカイスクレイパーは120,ポップアップは1,420だった。また,リッチメディア広告(GIFとJPEG以外)と非リッチメディア広告の比較も行われた。クリック率について,リッチメディア広告の優位性はなかったが,リッチメディア広告のコンバージョン率は非リッチメディア広告の4倍だった。

 インターネット広告のインプレッション効果が解明されてくると,次に注目されたのはインターネットとマスメディアを組み合わせたクロスメディア効果だった。OPA(Online Publishers Association,http://www.online-publishers.org/)は2002年1月から2月にかけて,メディアミックスが広告認知率に与える影響を測定している。テレビ広告だけを露出するグループとインターネット広告だけを露出するグループ,およびその両方を露出するグループの広告認知率を,広告を露出しないグループの広告認知率と比較した。それによると,テレビ広告とインターネット広告の両方を露出したグループのテレビ広告認知率およびインターネット広告認知率は,テレビ広告だけまたはインターネット広告だけを露出したグループのそれよりも高かった。また,EIAAは2002年7月から10月にかけて,ドイツ・イギリス・フランスの3カ国でクロスメディアキャンペーンの効果を測定した。この調査は7カテゴリー15ブランドのキャンペーンを対象に実施され,マスメディアにインターネットを組み合わせることによって広告のリーチが広がることが確認された。さらに,マスメディアだけまたはインターネットだけで広告に接触したひとよりも両メディアで広告に接触したひとのほうが,広告認知,ブランド認知,購買意向などが高かった。

 有効なクロスメディアプランを立案するためには,広告キャンペーンの予算のうちインターネット広告が占めるべき適切な比率を求めなければならない。これに対する回答を打ち出したのは,ユニリーバ(Unilever,http://www.unilever.com/)の石鹸ブランドについての調査だった。これはマーケティングエボリューションの監修により,MSN,ARF,IAB,ダイナミックロジックが共同で2001年10月から11月にかけて実施したものだ。テレビ,雑誌,インターネットを組み合わせたキャンペーンの効果を測定した。それによると,インターネット広告のリーチとフリークエンシーはそれぞれブランドの評価を高める効果があった。キャンペーン予算に占めるインターネット広告の比率は2%に過ぎなかったが,これを15%に高めた仮想プランであれば,ブランドの総合的な指標がさらに8%,特に購買意向率は14%上昇していたはずだというシミュレーションがなされた。その仮想プランは,テレビと雑誌についてはリーチをそのままにフリークエンシーを減らして,インターネットについてはリーチとフリークエンシーを高めたものだ。その後,同一手法の調査はマクドナルド(McDonald's,http://www.mcdonalds.com/)やフォード(Ford Motor Company,http://www.ford.com/)などの複数のキャンペーンに対しても実施されている。また2003年3月,ダブルクリックはネットレイティングスやインタラクティブマーケットシステムズ(Interactive Market Systems,http://www.imsusa.com/)とともに行ったメディアプランのシミュレーションを発表した。キャンペーン予算に占めるインターネット広告の比率を高めることによってテレビでは到達しづらいターゲットへのリーチを広げられることは,それによっても明らかにされている。

 インターネット広告が購買行動に与える影響も研究されている。インフォメーションリソーシーズ(Information Resources,http://www.infores.com/)はダブルクリックとともに,プロクターアンドギャンブルの3ブランドについて1999年に調査を実施した。それによると,食品ブランドについては,インターネット広告に接触したグループのオフラインにおける購買がインターネット広告に接触しなかったグループを19%上回った。しかし,その他のブランドではその傾向を確認できなかった。同社は2001年5月から8月にかけて,ユニリーバの8ブランドについても同じ手法の調査を実施した。そのうちの6ブランドについては,インターネット広告がオフラインの購買を促進した。また,アトラスDMTが2000年に実施した調査によると,あるオンライン旅行会社はインターネット広告のキャンペーンでオンラインの販売が10%増加した。増加した販売の80%は,広告に接触したもののクリックしなかった利用者によるものだった。

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