2.4 リッチメディア広告

 これまでのインターネット広告と比較して,情報量が豊富で高度なクリエイティブのものをリッチメディア広告と呼ぶ。IABは,リッチメディア広告の容量,マウスオーバーやクリックによる拡張,映像や音声の扱いなどについて,ガイドラインを制定している。インターネットのブロードバンド化によって,映像や音声を駆使したクリエイティブへの期待は高まるばかりだ。リッチメディア広告の概念は広く,新しい広告手法が次々と生まれているが,エクスパンド広告,インタースティシャル広告,フローティング広告,ビデオ広告に分類できる。これらのほか,通常のバナー広告でも,GIFでなくフラッシュのものや大容量のものについてはリッチメディア広告と呼ぶことがある。

 エクスパンド広告(エクスパンダブル広告)とは,マウスポインターの動きに反応して拡大する広告のこと。ポインターを重ねたときに拡大するバナーはロールオーバーエクスパンドバナーと呼ばれる。これは,ポインターがバナーから外れると拡大した領域も消える。一方,クリックすると拡大するバナーはクリックエクスパンドバナーと呼ばれる。これは,ポインターがバナーから外れても,クローズボタンがクリックされるまで拡大した領域は消えない。ポインターを重ねることによって広告を展開させるアクションはマウスオーバー,クリックすることによって広告を展開させるアクションはインユニットクリックと呼ばれる。マウスオーバーとインユニットクリックは広告内のアクションであり,リンク先のページをリクエストするクリックスルーとは異なる。ただし,IABが定めている広義のクリックには,クリックスルーのほかに,マウスオーバーとインユニットクリックも含まれる。広告のインプレッション数に対してマウスオーバーやインユニットクリックのアクションが生じる割合はインタラクション率と呼ばれ,クリックスルー率とは区別される。

 インタースティシャル広告とは,文字通り隙間を利用した広告のこと。一般的には,ページAとページBの間に自動的にページBにジャンプする広告ページ(スプラッシュページまたはリダイレクトページと呼ぶ)を挿入する手法を指す。トランジショナル広告やビットウィーンページ広告とも呼ばれ,コンテンツとコンテンツの間に広告を挿入する発想はテレビと共通している。トップページが表示される直前のインタースティシャル広告は,イントロマーシャルと呼ばれることもある。これらの広告はページをまるごと広告スペースとして利用できるので,自由なクリエイティブが展開できる。ウルティマーシャル(Ultramercial,http://www.ultramercial.com/)は,広告ページを挿入することで有料コンテンツを無料にする手法を提供している。同社が2006年に配信した広告の平均クリック率は7.38%だったという。なお,ポップアップ広告のうちポライトダウンロード(コンテンツがダウンロードされた後に広告のデータをダウンロードして,他ページに移動するときにその広告を表示する)を採用しているものは,インタースティシャル広告に分類されることがある。

 フローティング広告とは,ウェブページのコンテンツの上を浮遊する広告のこと。オーバーレイ広告とも呼ばれる。ダブルクリックが2001年7月にライコスジャパンで試験的に配信したフローティング広告は,約10%のクリック率を記録したという。バリュークリックジャパンによる2002年3月の実験配信では,クリック率の平均は6.0%だった。現在では広告手法としての新規性は薄れてきているが,クリエイティブによってはそれに近いクリック率を期待できる。また,フローティング広告については,トラフィック効果よりもインプレッション効果が注目されている。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC,http://www.dac.co.jp/)は,フローティング広告をはじめとするリッチメディア広告の管理技術を持つアイブラスター(Eyeblaster,http://www.eyeblaster.com/)と2001年12月から業務提携して,ブランディングを目的とした広告のサービス体制を強化している。サイバー・コミュニケーションズ(CCI,http://www.cci.co.jp/)は,アイブラスターと似たサービスを展開しているチェックメイト(CheckM8,http://www.checkm8.com/)と2003年7月から業務提携している。フローティング広告については,アイブラスターやチェックメイトのほかにも,ユニキャストコミュニケーションズ(Unicast Communications,http://www.unicast.com/)を買収したビューポイント(Viewpoint,http://www.viewpoint.com/),ポイントロール(Pointroll,http://www.pointroll.com/),ユナイテッドバーチャリティーズ(United Virtualities,http://www.unitedvirtualities.com/),アドモーション(Admotion,http://www.admotion.com.ar/)などが展開している。ジード(ZEDO,http://www.zedo.com/)が2003年12月に発表したアイツールズとの調査によると,フルスクリーン型のフローティング広告はバナーの14倍のコストがかかるものの,注目される時間は30倍だという。

 ビデオ広告とは,映像と音声を利用した広告のこと。インターネット広告推進協議会はインターネットCMと呼んでいるが,一般的には動画広告と呼ばれることが多い。ダブルクリックが買収したクリップマート(Klipmart)やアイワンダー(EyeWonder,http://www.eyewonder.com/)は,プラグインがなくても再生できるビデオ広告として注目されてきた。現在では主要な広告技術プロバイダーの多くがビデオ広告に対応している。ビデオのファイルがオーディエンスの端末に保存されないように,ダウンロード方式でなくストリーミング方式を採用しているものが多い。オーディエンスのパソコンやネットワークの環境を判別して,適切なストリーミング広告を配信することもできる。それでも,ストリーミング広告は広告が再生されるまでにバッファリングの時間がかかるうえ,通信速度が不安定だと映像が途切れるという欠点がある。ユニキャストコミュニケーションズ(現在のビューポイント)は,あらかじめキャッシュにビデオ広告をダウンロードしておくプレキャッシュと呼ばれる方法でそれを解決している。同社は,2004年の1月から3月にかけてダイナミックロジックと調査を実施して,プレキャッシュ型ビデオ広告の受容性の高さおよび明確なブランディング効果を確認している。ビデオ広告が注目されてくるにつれ,規格の標準化を求める声も大きくなってきた。IABは2005年11月にビデオ広告フォーマットのガイドラインを発行して,広告の挿入方法や画角などを規定した。広告挿入方法を,コンテンツの再生前に挿入するプリロール,再生中に挿入するミッドロール,再生後に挿入するポストロールに区分して,プリロールとミッドロールは30秒までと制限した。また,2006年5月にはビデオ広告の測定方法についてガイドラインを発行して,ビデオ広告が再生されるまでのバッファリングをインプレッションとしてカウントしないことなどを規定した。日本では,2002年あたりからビデオ広告の取り組みがあったが,当時はバナー広告のようにウェブページにビデオ広告を貼り付ける方法が主流だった。ブロードバンドが十分に普及していなかったことや広告の配信単価が割高だったことにより,市場は拡大しなかった。それが再び注目されるようになったのは,2005年4月にUSEN(http://www.usen.com/)が動画サイトを開設したあたりからだ。テレビ広告の素材をインターネットで配信するために欠かせない権利許諾情報の管理については,2002年から日本広告業協会(http://www.jaaa.ne.jp/)らがアドミッション(http://www.admission.jp/)というシステムを開発している。

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