3.2 インターネット広告の短所
インターネットでは誰もが自由に情報を発信できる。これはインターネットの長所だが,情報の信頼性や公正さを判断しにくくさせる短所ともいえる。うそ,大げさ,まぎらわしい情報がインターネットにはあふれている。アメリカ連邦取引委員会は,2000年5月に発表した「ドットコムディスクロージャーズ」(Dot Com Disclosures)において,インターネット広告で明瞭な情報を提供するために考慮すべきポイントを示唆している。日本では,公正取引委員会(http://www.jftc.go.jp/)が1999年2月から「景品表示法」(不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件)の対象範囲を拡大して,インターネット広告の監視も開始した。2002年8月からは,一般消費者を電子商取引調査員とした電子商取引監視調査システムの運用を開始している。それでも日本広告審査機構(http://www.jaro.or.jp/)へのインターネット広告への苦情や問い合わせは増加傾向にある。
2008年度 | 2007年度 | 2006年度 | 2005年度 | 2004年度 | |
テレビ | 1,567 | 1,580 | 1,866 | 1,504 | 1,534 |
インターネット | 661 | 656 | 605 | 605 | 442 |
雑誌 | 186 | 251 | 305 | 453 | 480 |
新聞 | 335 | 395 | 485 | 438 | 469 |
ラジオ | 131 | 86 |
インターネットは技術的に発展途上のメディアであるため,抱えている問題は多い。例えば,利用者の接続機器や通信速度などの環境がさまざまであることは,完全に同質なメッセージを伝達することを困難にしている。ウェブページのレイアウトに凝ってみたとしても,すべての利用者のブラウザーで同じように再現される保証はない。ストリーミング広告は,画質や音質を追求すればナローバンド利用者を切り捨てることになるし,そもそもプラグインがインストールされていないと再生されない。また,発展途上であるのは技術面だけではない。インターネットを受け入れる社会のシステムも不十分だ。法律を例にとってみても,インターネットを放送や通信に関連する既存の法律で解釈するのは無理がある。日本が法律を整備しても,世界に広がるネットワークに対しては効力を持ちにくい。
インターネットで顕在化している問題のひとつに,ドメイン名紛争がある。1998年12月,アメリカの石油会社のエクソンとモービルが合併を発表したときは,エクソンモービル(exxonmobil.comおよびexxon-mobil.com)のドメイン名が外国人青年に取得される騒動があった。ドメイン名紛争については,ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers,http:// www.icann.org/)が1999年10月に採択した「統一ドメイン名紛争処理方針」(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)にしたがって,世界知的所有権機関(WIPO,World Intellectual Property Organization,http://www.wipo.org/)などが仲裁するようになった。日本においては,日本ネットワークインフォメーションセンター(http://www.nic.ad.jp/)が2000年7月に発行した「JPドメイン名紛争処理方針」にしたがって,日本知的財産仲裁センター(http://www.ip-adr.gr.jp/)が紛争を処理している。同センターのウェブサイトでは「itoyokado.co.jp」「sonybank.co.jp」「gap.co.jp」などの申立事件と裁定が公開されている。
各種ガイドラインや自主規制を策定しようという動きは盛んだ。古いものとしては,国際商工会議所(ICC,International Chamber of Commerce,http://www.iccwbo.org/)が1996年6月に発表した「インタラクティブマーケティングコミュニケーションに関するガイドライン」(The ICC Guidelines on Interactive Marketing Communications)がある。新しいインタラクティブシステムを利用したマーケティング活動に対する信頼を高め,広告主の最大限の表現の自由,政府その他の最小限の規制介入を目的としたものだ。インターネット広告推進協議会は「広告掲載基準ガイドライン」を制定しているが,媒体社によってはさらに詳細な審査基準を設けて消費者の保護に努めている。日本たばこ産業(http://www.jti.co.jp/)は1998年4月から,テレビやラジオなどと合わせてインターネットでも銘柄別の広告を中止している。銘柄別ウェブサイトは満20才以上の喫煙者しか閲覧できない。
第2条 | 以下に掲げる類の公序良俗に反する表現内容のある広告は掲載を避けるものとする。 | |
第1項 | 犯罪を肯定・美化する表現・内容 | |
第2項 | 性に関する表現で、青少年の保護育成に反すると思われる表現・内容 | |
第3項 | 醜悪、残酷な広告表現で、消費者に不快感を与える恐れのある表現・内容 | |
第4項 | 非科学的、迷信に類するもので、消費者を惑わせたり不安を与える表現・内容 | |
第5項 | 不良商法、詐欺的とみなされる表現・内容誹謗中傷・人権侵害になる表現・内容 | |
第4条 | 以下のようなインターネット特有の仕組みや不都合により、消費者に困惑を与える場合には掲載を中止することがある。 | |
第1項 | バナー広告のリンク先については、あらかじめメディアが定める期限までに開設されていることを原則とするが、掲載開始後のリンク先及び内容の変更により不都合が生じた場合 | |
第2項 | バナー広告のリンク先から媒体社サイトにブラウザの「戻る」ボタンで戻れないような細工が故意に施されている等の場合 |
今後の技術の発展は,現在のインターネット広告の問題を解決していくとともに,新たな問題を発生させていくと考えられる。インターネット広告の規格は,マイクロソフトなどが製品仕様を変更するたびに見直さなければいけないリスクを抱えている。アメリカの通信品位法裁判が象徴する表現の自由の問題や,デジタルコンテンツの流通にまつわる著作権の問題,ターゲットをセグメントするための個人情報とプライバシーの問題なども,インターネット広告を展開するうえで理解しておくべき問題だ。
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