第4章 インターネット広告の取引形態と料金体系

4.1 保証に応じた料金

 インターネット広告の主要な取引形態としては,出稿期間保証型,インプレッション保証型,クリック保証型およびクリック課金型,成果報酬型がある。それぞれ,広告が出稿される期間,広告が露出される回数,広告がクリックされる回数,広告のクリックによりもたらされる成果に応じて広告料金が決定する。

 出稿期間保証型はもっとも原始的な取引といえる。一般的に出稿期間中の想定インプレッション数も開示されるが,保証しているのはあくまで出稿期間だ。広告主はインプレッション数が変動するリスクを受け入れなければならない。そこで,インプレッション保証型などの取引が生まれてきた。

 インプレッション保証型は,広告主が出稿期間中のインプレッション数を指定できるものも多い。インプレッション数が多ければ多いほど,インプレッション単価は割安になることがある。保証されたインプレッション数に到達しなかったときは,不足分の補填を請求できる。

 クリック保証型の取引では,指定したクリック数に到達するまで広告が露出される。日本では1998年からバリュークリックジャパン(現在のメディアイノベーション)をはじめとするクリック保証の広告会社が立ち上がり,個人サイトを含む小規模サイトの囲い込みが進行した。クリック保証型は,出稿期間保証型やインプレッション保証型と比較して,広告会社や媒体社の負担するリスクが大きい。例えば,広告主に対して1万回のクリックを保証したとする。広告会社や媒体社は,広告を500万回露出することでそれを達成するつもりでいても,実際には700万回の露出が必要になるかもしれない。バナー広告のクリック率の低下はこのリスクを増大させた。サイバーエージェントは収益の悪化によりクリック保証型バナー配信ビジネスから撤退している。なお,検索連動型広告などもクリック数に応じて広告料金が決定するが,それらはクリック数を保証しているわけではないため,クリック課金型(ペイパークリック型)と呼んで区別する。

 成果報酬型はアフィリエイトプログラムとも呼ばれ,費用対効果を追求する広告主から支持されている。資料請求や購買などの成果に応じて広告料金が決定する。広告のインプレッション数やクリック数によって料金が変動することはない。アメリカでは,バリュークリック(ValueClick,http://www.valueclick.com/)の傘下でビーフリー(Be Free)と合併したコミッションジャンクション(Commission Junction,http://www.cj.com/),楽天(http://www.rakuten.co.jp/)に買収されたリンクシェア(LinkShare,http://www.linkshare.com/)などが仲介サービスを展開している。日本では,ヤフーと資本提携しているバリューコマース(http://www.valuecommerce.co.jp/),ファンコミュニケーションズ(http://www.fancs.com/),リンクシェア・ジャパン(http://www.linkshare.ne.jp/)などが大手だ。楽天によるリンクシェアの買収,ヤフーのバリューコマースへの資本参加は,2005年のことだ。ブログの普及によって消費者の生み出すメディアが大きな力を持ち始めたことが,その背景にある。成果報酬型は広告主にとって有利な取引といえる。しかし,成果あたりの報酬率や支払条件が厳しいと優良メディアからの協力を得られないなど,効果的な運用は容易ではない。

 このほか,インターネット広告を経由して電話がかかってくるたびに課金される電話着信課金型(ペイパーコール型)といった仕組みもある。アメリカではインジニオ(Ingenio)やイースタラ(eStara)がサービスを展開していたが,それぞれAT&T(http://www.att.com/)やアートテクノロジーグループ(Art Technology Group,http://www.atg.com/)が買収した。日本ではコムスクエア(http://www.comsq.com/)が開発した技術を利用して,オプトやアドウェイズ(http://www.adways.net/)がサービスを展開している。

 いずれにせよ,これらのインターネット広告ならではの取引形態と料金体系は,マスメディアとのメディアミックスを立案するうえで不都合なこともある。例えば,インターネット広告のインプレッションという指標は,テレビ広告の延べ視聴率GRP(リーチ×フリークエンシー)やTRP(ターゲット別のGRP)とは比較しづらい。リーチやフリークエンシーの指標をインターネット広告にも導入しようとする動きは強まっていくだろう。リーチ保証などの新しい広告取引が増えていくかもしれない。しかし,複数メディアの価値を同一基準で比較することにはそもそも無理がある。テレビ広告のフリークエンシー3回とインターネット広告のそれでは効果が異なるはずだ。その研究はまだ十分とはいえない。

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